珠算用語は難しいことばがたくさんあります。また、算法については多くの方法があり、指導している時に「その指使いはダメだよ」と過去に言ってしまうことがありましたが、色々勉強をすると自分が知らないだけで生徒は自ら弾きやすい方法を見つけ、合理的に計算をしていることがあります。
これから、珠算について複数の書籍を参考に歴史、用語、算法について私自身が理解しやすいようにまとめていこうと思います。
なお、この内容は下記の書籍を参考にさせていただいています。
出典1 戸谷清一 日本珠算史 暁出版株式会社 1982年
出典2 伊藤善仁 珠算の学習指導 暁出版株式会社 1994年
出典3 珠算辞典(全) 暁出版株式会社
Contents
1.歴史(History)
(1)日本への伝来
中国の「算盤(Suanpan)」が日本に伝えられたが、その時期は明らかではない。中国の「魁本対相四言雑字」が南北朝時代に日本で復刻されたが、その資料にはそろばんの絵が記載されている。日本考は侯継高「全浙兵制考」の付録に「日本風土記」があるが、この「日本風土記」を改題して復刻したものである。日本考には、そろばんを「そおはん」あるいは「そろはん」と書かかれているようだ。この記載から推測すると、少なくとも天正元年(1573)以前にはそろばんは日本へ伝来し、この書物に記載されるほどに普及していたものとみられる。
(2)そろばんの語源
算盤をソロバンと呼ぶようになった理由は以下のように諸説あるが、おそらく中国との貿易にたずさわっていた人たちが、中国人と交易をしているうちに、いつとはなしに取引の計算に便利なそろばんを入手し、中国人のいう算盤の発音を日本流に「ソロバン」というようになったのだろうと言われている。
ア.小山田与清(松屋筆記 1783~1847)
珠の揃った盤すなわち揃盤、または珠のサラサラ鳴る音からサラ盤、ソロ盤となった。
イ.黒川道祐(雍州府志 1684)
十露盤の十露は珠十個をあらわす。
ウ.星野恒(史学雑誌44号 1893)
サンバン、ソロバンは音が似ており、南支方面の明の商人の算盤という発音を聞いてソロバンと称するようになった。
エ.C.G.ノット(算盤ーその歴史面及び科学面について 1885)
中国音のスアンパンを誤って発音した。
オ.日本古典全集「古代数学集上」(1927)
ソロバンは算盤の別音SOR-BANの転音。
カ.遠藤佐々喜(算盤来歴考 1931)
中国の珠盤を急呼するとソロバンに聞こえる。
キ.三上義夫(ソロバンの語源に関する新説の批判 1936)
サンバン → サルバン → ソルバン → ソロバンと転訛
ク.竹内・関(そろばん物語 1947)
算木のサラサラという音からソロという名詞が日本古来からあった。
2.帰除法と亀井算(わり算九九改革の試み)
(1)帰除法
帰除法はわり算九九を用いる計算方法で、商が自動的に求められて計算も速くできるが、この九九は覚えにくくかけ算九九と混同しやすい。ただし、熟達することでわり算の計算に秀でることができる。
(2)亀井算
かけ算九九を用いて商を求める計算方法をいう。「亀井割九九引さん」と記されている書籍もあるが、なぜ亀井という名称がつけられたかは明らかではないようだ。
3.庶民とそろばん
(1)商人とそろばん
商業活動が活発になると、商取引の拡大、販売・仕入などの諸帳簿の整備の必要などから、文字を学習する必要と、計算に熟達することが必要になった。つまり、「読み、書き、そろばん」が商人の知識として必要になったのである。
(2)寺子屋
そろばんの教授は一般的に寺子屋で行われ、江戸時代中期頃から次第に増加しはじめた。寺子屋が激増しはじめた享保から文化・文政頃に書かれた「飛鳥川」には、江戸における寺子屋の師匠について、「一町に二三人づつもあり」と記されている。
4.そろばんの製造
(1)長崎と摂津
そろばんが中国から伝来したころ、中国人からゆずりうけたそろばんが用いられたのだろうが、まもなく日本でもそろばんが製作されるようになった。製作がはじまった年は明らかではないが、そろばんの裏に「元和二年(1616)大阪西勘定所」と貼り紙がある井上家所蔵のそろばん、住友良入が17歳(元和9年 1623)から使ったそろばんなどをみると、珠の形状が中国の鼓珠形なっているものから現在日本で一般的に使用されている珠に変わっているため、この頃には日本でそろばんが製作されていたと思われる。
(2)大津そろばん
慶長17年(1612)、長崎へやってきた明国人が持っていたそろばんを、奉行長谷川左兵衛につき従って長崎にきていた片岡庄兵衛がもらいうけ、その節、そろばんの製作法も教えてもらい、郷里大津へ帰ってからそろばんの製造をはじめたのが大津そろばんのはじめだといわれている。
(3)播州そろばん
天正年間(1573~1591)に三木城の攻略があり、その際三木の住民が京・伏見・大津などに難を避け、大津に避難した人たちは大津そろばんの盛んなのに驚き、そろばんの製造方法を会得して三木に戻り、そろばんの製造をはじめた。後に小野町に住み移ったのが播州そろばんの起源といわれている。
(4)雲州そろばん
寛政のころ(1789~1800)、亀嵩町(島根県)の山根琴留という素封家が、土地の大工村上吉五郎に広島の塩谷小八作のそろばんを示して吉五郎にそろばんを作ることを勧めた。吉五郎は京都本願寺の造営を手伝ったほどの名大工で、苦心してそろばんの製作法を考え出した。この後、そろばんを製造する人が次第に増え、亀嵩村ばかりでなく、隣村の横田村など附近の村落でも製造されるようになり、雲州そろばんと言われるようになったようだ。
5.明治・大正時代の学制と珠算
(1)和算廃止・洋算専用
徳川幕府が崩壊して明治新政府が出現すると、天皇親政、公議世論の尊重、開国和親の方針のもとに、政治・経済・教育・文化などあらゆる分野にわたって、西洋先進諸国に追いつくための改革が急速になされた。
教育の分野においては、明治5年(1872)に学令が発布され、数学はわが国で発達したところの和算を廃止し、洋算が採用された。新教育は数学ばかりでなく、他の教科においても庶民にとってはあまりにも新奇なものばかりで実生活とはかけ離れていた。そのため、庶民にはあまり歓迎されなかった。庶民が必要としたのは直接の生活に必要な「読み、書き、そろばん」であった。
そのため、明治7年には洋算(筆算)、和算(珠算)のどちらを教えても良いことになった。
(2)学令の変遷
明治14年(1881)に、初等科(3年義務制)、中等科(3年)においては筆算または珠算、あるいは併用、高等科(2年)においては必ず筆算を用いることになった。
明治19年(1886)に文科省は省内ならびに管轄学校に対して、次年度4月より会計事務は珠算を廃止して筆算を用いることを訓令した。その理由は、
ア.珠算が速算に便利であるというは、そろばんの特性ではなく、ひさしい間の慣用により熟練の結果であり、筆算でも熟練すれば速算に至るであろう。
イ.珠算はそろばんを使用するから精神に疲労が少ないというが、筆算も熟練すれば精神に疲労をもたらさない。
ウ.珠算はそろばんにたよるから、精神作用の遅鈍、記憶力・注意力の減退を生じ、機械的に事務をとるために新案の工夫・改良をはかる思考力のたまたげを生ずる。
エ.筆算は誤りを指摘するのに便、数を高唱しないで計算でき、他人のさまたげにならない。そろばんを用いなくともよい。珠算には読み上げる者と計算する者と2人いる。(筆算採用のために、たて書きをよこ書きのアラビア数字に改める必要がある)
というものであった。
学制がしかれてから30年間、小学校における算術教育を筆算で行うか、珠算で行うかについて混乱をきわめ、文部省令はたびたび改変された。
6.布数法
(1)布数とは、そろばんの盤面に数を置くこと。
(2)布数法とは、布数をすることであらわすことができる方法のことで、複数の方法があります。
ア.1,234

イ.1,200

ウ.1,002

エ.1割2分3厘4毛

オ .0.0258

カ .¥5,678

キ .$90.61

7.運指法と運珠法
(1)運指法とは
そろばんの珠を動かすのにどの指を使うのか、何本の指を使うのか、ということを総称して運指法という。運指法には、一指法と二指法があり、一指法は人差し指のみを使用する方法、二指法は親指と人差し指の2本を使用する方法である。
(2)運珠法とは
そろばんの珠を動かす方法のことを運珠法という。運珠法には3つの分類があり、(1)添入排開、(2)上添下排、下添上排、(3)右排左進、左退右添、に分けられる。
ア.添入排開
添入とは、1+1、2+2、3+6、4+5、7+2、8+1のように、珠を添え入れるのみの場合をいう。
排開とは、2-1、4-2、9-6、9-5、9-2、9-1のように珠を払うのみの場合をいう。
イ .上添下排、下添上排
上添下排とは、4+2、3+4、1+4のように、五珠を入れて一珠を払う場合をいう。
下添上排とは、6-2、7-4、5-4のように、一珠を入れて五珠を払う場合をいう。
ウ.右排左進、左退右添
右排左進とは、3+9、5+7、7+6、6+8、9+7のように、下位の珠を払って繰り上げる場合をいう。
左退右添とは、12-9、12-7、13-6、14-8、16-7のように、上位の一顆を払って減数との差を下位に加える場合をいう。
8.読上算
読み手と計算手に分かれて計算する方法で、学習としては特に初歩者の加減法の指導に良い方法である。読上算を行うことで、聞く力、集中力が身に付きやすい。また、読み手のレベルの高さによっては、苦手な運珠を読み手が暗算をしながら繰り返し読むことができるのでとても有効な練習方法である。
数の読み方は、発音を明瞭にし他の数と聞き誤ることのないように読み、特別な場合を除きあまり変わった読み方は避けた方が良い。
0 レイ 1 イチ 2 ニ 3 サン 4 ヨン(シとは言わない) 5 ゴ 6 ロク 7 ナナ(シチとは言わない) 8 ハチ 9 キュウ 10 ジュウ
読み上げる時は、音声はなるべく爽やかに、計算する者が調子に引き込まれて他の雑念を浮かべる余裕なく、軽やかにリズム良く計算できるようにすると良い。読み上げに適当な発声法をよく研究し、疲労をなるべく感じなくすると同時に、計算する者に過度の急迫感を与えず、また逆に倦怠感を起こさせないよう注意することが大切である。